TENNIS

東レ パンパシフィックオープン開幕を控えた、９月下旬。グランドスラム通算59の優勝を誇るマルチナ・ナブラチロワさんと、元世界４位の伊達公子さんが対談を行ないました。いずれも選手として活躍するのみならず、固定観念や、ガラスの天井も打ち破ってきたパイオニア。そんな"生きるレジェンド"たちの声に、耳を傾けてみましょう。


――お2人は現在の女子テニス界を、どうご覧になっていますか？

ナブラチロワ：以前よりもさらに国際化が進み、とても多様性のある時代だと思います。アジアだけでなく、アフリカ大陸からも多くの選手が出てきました。ジュニアでもケニアの選手が活躍していて、それは素晴らしいことだと思います。
国際化が進むと、プレースタイルも多様になります。異なる体格やパーソナリティ、文化的背景を持っている選手が増えるし、子どもたちは自分と似た選手をお手本とすることで、さらに多様性が増すと思います。

伊達：確かに今は、バラエティ豊富になっていますよね。ラケットの進化もあり、一時はパワフルなプレースタイルが増えましたが、その後、アシュリー・バーティ（オーストラリア）が世界１位になったり、オンス・ジャバー（チュニジア）が出てきたことによりバリエーションが増え、それに対応するために、また新しいスタイルや戦術が生まれていると思います。


――ナブラチロワさんは、アメリカとチェコのテニス事情をご存知です。それぞれの国について、どう感じていますか？

ナブラチロワ：現在のアメリカテニス界は、若い選手が次々に台頭し、素晴らしい時代を迎えています。でもしばらくは、ウィリアムズ姉妹しかいない時もありました。トップ選手が出るかどうかは、サイクルや流れもあります。ですから大切なのは、常に多くの人たちに、テニスに興味を持ってもらうこと。テニスはお金が掛かるスポーツなので、アクセスが難しいところもあります。チェコではそこが上手くいっているので、多くの選手が出てくるんだと思います。

伊達：実は私、チェコから絶えず良い選手が生まれる理由が気になっていました。ヒントを教えてもらえませんか？

ナブラチロワ：チェコでは小さな町や村にも、４～５面のクレーコートがあるんです。そして子どもたちは、テニスクラブの掃除やコート整備をすることで、無料でテニスができるんです。まずは、テニスを楽しむ機会を与えること。楽しくなければ継続は無く、継続がなければ成功もない。それだけのことです。


――最後に伺います。女子テニスは、女性の社会進出や活躍を支援してきた側面もあります。今後、女子テニスがさらに盛んになるには、何が必要だと思われますか？

ナブラチロワ：色々ありますが、一番は、男性が権力を独占している社会では、女性の活躍は難しいということ。男性が企業やメディアの上層部に居ると、報道も男性のことばかりになりがちです。ですから女性のリポーターやカメラマン、それに企業の上層部にも女性がもっと必要です。そして女性は、声を上げなくてはいけません。女子テニスは、そのような流れを支援していけると思います。

伊達：それが必要なのは、間違いないと思います。私も子どもの頃から積極だったかと言えば、そうではない。でもテニスに出会い、テニスで自信を得られたからこそ、自分のパーソナリティも変えられた。それは、世界に出た時には自分の意志を伝えないと、存在すら認められないと気付けたからだと思います。日本人は、もっともっと自信を持ってやっていくべきだと思います。

ナブラチロワ：日本では、女性は男性の後ろを歩く文化があることは知っています。でもこれからは横に並ぶ......いえ、男性の前を歩いていきましょう！

マルチナ・ナブラチロワ
1956年生まれ。元世界ランキング1位、グランドスラム通算59勝、ウィンブルドンでは史上最多の9勝を挙げた。

伊達公子
1970年生まれ。元世界ランキング4位。全豪、全仏、全英でベスト4に入るなど世界のトップで活躍し、現在はテニス解説やジュニア育成などで活躍。